【第5回】“投げられない子”が増えている——キャッチボールと“目と手をつなぐ力”の話

実は近年、教育現場では「うまく投げられない子ども」が増えていると言われています。ボールが手からうまく離れない、狙った方向に飛ばない、正面に来たボールを捕れない。かつては誰もが自然にできていた“投げる・捕る”が、今の子どもたちにとっては意外なほど難しい動作になりつつあります。
今月はこの“投げる・捕る”——つまり『身体操作』の力についてのコラムです。
前回の育成回もテーマは『身体操作』でした。当日の体験をより深く受け取っていただくための予習にもなれば幸いです。

「身体操作」と聞くと、野球やドッジボールなど、ボールを使うスポーツをイメージされる方が多いかもしれません。けれど実は、“操作”の力はもっと広く、あらゆるスポーツの土台になる能力です。
サッカーで足元にボールを収める、バスケでパスを受け取る、バドミントンでシャトルを打ち返す——どの動きも、目で対象を見て、その情報を体に伝え、狙った通りに手足を動かす、というプロセスの連続です。この一連の流れを支える力を、私たちは「目と手(足)の協応」と呼びます。
第3回で「体幹=体の中心を安定させる力」、第4回で「力発揮=体全体で力を伝える技術」をお伝えしました。今回の「身体操作」は、そのさらに一歩先の安定した体で、伝えた力を、狙った通りに扱う力です。体の内側から外側へ、そして“感覚と動きの連携”へと、着実にステップが進んでいきます。

この能力が育っている子は、スポーツの現場でいくつかの共通した特徴を見せます。
まず、判断が早くなる。
目に入った情報を素早く体の動きに変換できるので、「見て、決めて、動く」までの時間が短くて済みます。
次に、動きが正確になる。
ただ力を出すのではなく、“狙った通りに”力を伝えられるので、パスやシュートの精度が上がります。
そして、新しい競技への適応が早くなります。
初めてやるスポーツでも「見て真似る」力が高いので、コツをつかむのが速いのです。
つまり身体操作の力は、特定の競技のためだけの技術ではなく、あらゆるスポーツで通用する“応用の力”です。
今この年代で育てておくと、将来どの道に進んでも大きな武器になります。
冒頭でお伝えした通り、投動作が苦手な子どもは年々増えています。原因は複合的ですが、多くの現場関係者が口をそろえるのが、「単純にキャッチボールの機会が減っている」ということです。
かつては、放課後の公園で誰かがボールを持っていれば、自然と輪ができ、投げ合いが始まりました。今はその機会そのものが減っています。習い事は増えても、“目的のない、自由な投げ合い”の時間は、意外なほど失われているのです。
けれど、キャッチボールという一見単純な遊びには、実は驚くほど多くの発達要素が詰まっています。相手を見て、距離を測って、体全体で力を伝え、飛んでくるボールを目で追い、両手でつかむ——「見る・判断する・動く・捕る」のすべてが、一往復のなかに凝縮されているのです。これほど効率のよい“操作の練習”は、なかなかありません。

特別な道具はいりません。柔らかいボール、風船、丸めた新聞紙、お手玉——身近なものでできる遊びには、身体操作の力を育てる要素がたっぷり詰まっています。
風船バレーは、ボールが少し苦手なお子さまにもおすすめです。ゆっくり落ちてくる風船は、“目で追う”時間をたっぷり与えてくれるので、目と手の協応を育てる入門にぴったり。お手玉は、両手を同時に、しかも別々に動かす練習になり、脳への刺激としても優れています。
そして何より、キャッチボールです。ボールをひとつ用意して、10分でいい。距離も強さも問いません。「今日は下から投げてみよう」「今日は片手だけで捕ってみよう」——ルールをちょっと変えるだけで、飽きずに動きの引き出しを増やせます。うまく投げられなくても、うまく捕れなくても構いません。その繰り返しの中で“操作”の感覚は、少しずつ確かに育っていきます。
今週、ご家族で10分だけキャッチボールをしてみてください。柔らかいボールでも、丸めた新聞紙でも構いません。「見て、捕る」——このシンプルな一往復のなかに、たくさんの力が育っています。