【第4回】うちの子、力がないのかも?——"筋力"と"力発揮"の違い

「うちの子、もう少し力があればいいのに」——お子さまの試合や練習を見ていて、そう感じたことはありませんか。ボールが遠くまで飛ばない。相手にすぐ押し負けてしまう。ジャンプが伸びない。そんな場面に出会うと、つい「筋トレさせた方がいいのだろうか」と考えたくなります。
先日も、ある保護者の方から「小学生のうちから筋トレはやらせていいものでしょうか」というご質問をいただきました。とても大事な問いだと思います。今月はこの疑問に、正面からお答えしたいと思います。今月15日の育成回もテーマは「力発揮」ですので、当日の体験をより深く受け取っていただくための予習にもなれば幸いです。
まず一歩引いて考えてみましょう。スポーツの現場で「力がある選手」と言われるとき、それは必ずしも"筋肉が大きい選手"のことではありません。むしろプロの世界を見ても、体は決して大きくないのに、驚くほど強いボールを投げたり、鋭いシュートを打ったりする選手はたくさんいます。
なぜでしょうか。それは、"力"には二つの側面があるからです。ひとつは筋力——筋肉そのものが生み出せる力の大きさ。もうひとつが力発揮——その力を、必要なときに・必要な向きに・体全体を使って伝える技術です。
そして小学生の年代で本当に大切なのは、後者の「力発揮」の力なのです。
筋力=エンジンの大きさ、力発揮=運転の技術
わかりやすく車にたとえてみましょう。筋力はエンジンの大きさ、力発揮はドライバーの運転技術です。
いくら大きなエンジンを積んでいても、運転が下手ならスピードは出ませんし、事故のリスクも高まります。逆に、エンジンが小さくても、上手なドライバーが運転すれば、驚くほど滑らかに、そして速く走れます。
スポーツも同じです。筋肉の大きさだけを追い求めても、それを"使いこなす技術"がなければ、本当の意味で強くはなれません。そして、この"使いこなす技術"——体全体を連動させて力を伝える感覚——は、まさに今、小学生年代でこそ育つのです。

具体的に見てみましょう。たとえばボールを遠くに投げるとき、腕の力だけで投げているように見えますが、実際には次のような順序で力が伝わっています。
足の裏で地面をしっかり踏み、その反発力が足から腰へ、腰から背中へ、背中から肩へ、肩から腕へ、そして指先へ——まるでムチのように、順番に力が伝わって、ボールが飛んでいきます。この連鎖のどこかが弱かったり、順序が狂ったりすると、途中で力が逃げてしまい、いくら腕を強く振ってもボールは遠くまで飛びません。
強く投げられる子は、腕が太いから投げられるのではありません。足→体幹→腕という力の流れがスムーズにつながっているから投げられるのです。これが「力発揮」の正体です。
そしてこの"力の流れ"の感覚は、遊びの中で体を動かすうちに、少しずつ体に刻まれていきます。逆に、腕立て伏せや腹筋運動をいくら繰り返しても、この"つながりの感覚"はなかなか育ちません。

ここで、冒頭の「筋トレはやらせていいのか?」という問いに戻ります。結論からお伝えすると、小学生年代では、筋肉を大きくするための筋トレは基本的におすすめしません。理由は二つあります。
ひとつは、成長期の体にはまだ骨や関節が発達途上の部分が多く、過度な負荷が思わぬ影響を与える可能性があるからです。もうひとつは、そもそもこの年代の伸びしろは"筋肉の量"ではなく"神経の発達"にあるからです。
第1回でお伝えした通り、小学生年代は神経系が急速に発達する「ゴールデンエイジ」。この時期に本当に伸ばすべきなのは、体全体を上手に使う感覚——つまり力発揮の"技術"なのです。筋肉を大きくするのは中学生以降でも十分間に合いますが、力を上手に出す感覚は、今しか育ちません。
「筋トレはダメ、じゃあ何をすれば?」——答えは、実はとてもシンプルです。体全体を使う遊びを、たくさん経験すること。これに尽きます。
たとえば、押し相撲や手押し相撲。両手両足を使って踏ん張り、相手に力を伝える——これは体全体の連動を育てる最高の遊びです。うんていや鉄棒でぶら下がる、木登り(安全な範囲で)、大きなボールを両手で投げる、重たいペットボトルを持って運ぶ——どれも道具はいりません。
ポイントは、「腕だけ」「足だけ」ではなく、体全体を使わないとできない動きを選ぶこと。そして、うまくできてもできなくても、楽しんで繰り返せることです。夢中で取り組むうちに、体は自然と"力の伝え方"を覚えていきます。
今月15日の育成回では、この「力発揮」をテーマに、遊びを通じて体全体で力を出す感覚を育てる動きに取り組みました。「押す」「引く」「支える」「投げる」—見バラバラに見える動きの中に、共通する"力の流れ"があります。当日お子さまが持ち帰ってこられる体験には、ぜひ耳を傾けてみてください。
お子さまが「力がない」ように見える瞬間があっても、どうか焦らないでください。今の段階で必要なのは、筋肉を増やすことではなく、体をうまく使う感覚を育てることです。その土台さえしっかり育てば、体が大きくなる中学生以降に、驚くほどの伸びが待っています。
▷ 今月のひとこと:今週、ご家族で「押し相撲」をやってみてください。両手を合わせて、足で踏ん張って、相手を動かす——シンプルですが、体全体を使う感覚がいちばんよくわかる遊びです。お子さまが意外と強くて驚かれるかもしれません。